王太子の揺るぎなき独占愛
「強気で頑固なジュリアもイザベラの言うことなら聞くんだ。まあ、渋々ってとこだけど」
レオンはクスクスと笑い、面白がる。
わがままというわけではないが、ジュリアの頑固な性格に唯一負けることのないイザベラに、レオンは一目置いている。
結婚準備で忙しく、外出も多いジュリアの警護を確実に行うことに感謝もしている。
「イザベラは、殿下と……」
サヤはレオンの胸に顔を埋め、小さな声でつぶやいた。
「ん? イザベラ?」
胸元に響いたサヤの声に、レオンは視線を向けた。
「イザベラなら知ってるだろ? ルブラン家の若い女性の中では『動の女神』として知られてるからな」
「はい……」
美しき女性騎士として幾つもの功績をあげているイザベラを、人々はそう呼んで称えている。もちろん、サヤもそのことは知っていて、イザベラを尊敬している。
一方、王家の森について誰よりも深い知識を持ち、王家への忠誠だけでなく城下の者たちの健康にも気づかいをみせるサヤは『静の天使』と呼ばれ慕われている。
イザベラの堂々たる美しさとは逆の、控えめながらも端正な美しさは天使のようで、森の天使ちゃんとも呼ばれている。
「俺は、天使の方が断然いいんだけど。というより、天使しかいらないし」
ぼそぼそとつぶやくレオンの言葉がうまく聞き取れず、サヤは視線を上げた。
「天使……? なんのことでしょう? すみません、ぼんやりとしていて聞き取れなくて」
「あ、いや、いいんだ。大したことじゃない……こともないが。単なるひとりごとだ」
レオンは慌ててそう言うと、サヤの顔をじっと見つめた。
たしかに天使と呼ばれるだけあって、可愛い。そして愛しい。
強く望み、ようやく手に入れた愛しいサヤは、今後誰の天使でもない、自分だけの天使だ。
結婚式が待ち遠しい。
一刻も早くサヤを妃として迎え、国王夫妻に負けないほど愛し合いたい。
妃としてレオンの側にいたいと、サヤがようやく言ったことに気をよくし、サヤの表情が曇っていることに気づかないまま、レオンはそんな未来を想像していた。