王太子の揺るぎなき独占愛
サヤの王妃教育は順調に進んでいた。
王家の歴史についてはレオンが子どものころに家庭教師としてついていた女性が呼ばれた。
本来なら王妃になることを想定し学び終えているはずの内容だ、わざわざ特別に教えてもらえることにサヤは申し訳なさを感じ、必死で学んだ。
朝早くから王宮を訪れ、その日に予定されているものをひとつひとつ真面目にこなし、周囲からの期待に応えていた。
礼儀作法についても王宮で最古参の女官メリーが時間をかけ丁寧に教えた。
いずれ王妃になる身、相手に対して必要以上に立場を強調する必要はないがへりくだってはいけない。
王妃の言葉や態度ひとつが国王の評価にもつながる。
お辞儀の仕方や歩き方、そして晩餐会での食事の仕方も教え込まれた。
レオンと並ぶときの距離感や視線の向け方、そして国民の前に立つときの手の振り方など、細かなことまで覚えなければならなかった。
これまで森のことしか考えず、自分自身のことも含め、国全体のことなどなにも知らなかったことにサヤはひどく落ち込んだ。
ファウル王国を支えている鉱山物の種類や、他国との交易で人気がある織物については知っているつもりでいたが、何もわかっていなかったと気づいた。
そして、製糸業が盛んなファウル王国では、女性では刺繍の腕を磨くことが当然で、誰もが嫁入りのときに自分が使い慣れた刺繍道具一式を運び入れることも、初めて聞いた。
王家の森に関することなら誰にも負けない自信はあるが、それ以外のことについてはまるっきりだめだと、日々実感し落ち込む気持ちを叱咤しながら王妃教育を受けている。
そんなサヤの落ち込みに反して、サヤの教育を続ける面々は、彼女の素直な性格となにごとにも真面目に取り組む姿勢に好感を持ち、熱意を込めて教えた。
そして、その期待に応えたサヤは、着実に王妃として必要な知識と礼儀作法を身に着け、周囲をホッとさせた。
結婚式まであと四カ月。
文句も言わず真面目に努力するサヤの姿は王宮内でも評判で、使用人たちはみなサヤを応援し、レオンとの結婚式を楽しみにしていた。