王太子の揺るぎなき独占愛
そんな中、刺繍を教えてもらうためにジュリアのもとを訪れたサヤは、ジュリアが体調を崩し寝込んでいると知った。
ジュリアの世話をしている侍女によると、すでに医師の診察を受け、疲労による体調不良ということだった。
結婚式を控えたジュリアは、その準備で忙しく、食事もおろそかにしていた。
もともと食べ物の好き嫌いが多いせいで体調を崩すことが多かったが、その都度サヤは薬草を煎じ飲ませていた。
サヤは王家の森の果樹園に、ジュリアが好きな洋ナシを取りに行った。、
森の奥にある果樹園では、季節ごとにあらゆる果物を収穫するのだが、管理をしているルブラン家の努力もあり収穫量も年々増えている。
王家だけでは消費できず、城下の学校で子どもたちに振舞われることも多い。
それは子どもの教育に力を注ぐラルフの提案を、レオンが先頭に立ちすすめているのだが、今後は果樹園を拡大し、学校だけでなく、病院に診察に来る患者たちにも症状によって薬とともに配ろうと考えている。
レオンと婚約をするまでは、サヤも果樹園の管理に携わっていて、子どもたちが給食でアップルパイやイチゴのゼリーに大喜びする姿をよく見ていた。
病院で果物を配ることは、本来ならサヤもその計画をすすめるメンバーのひとりだったが、レオンと婚約し、その計画だけでなく王家の森の管理からも身を引くこととなった。
もちろん、時間があるときには森に入り気分転換をしているが、以前ほど薬草の生育状況や温室の管理に心をくだくことはない。
その日の天候を気にかけ、暑さに弱い植物に日よけを施したり、湿地を好む植物には水やりのタイミングを神経質に考えたり。
一日中森のことを考えていたことが、まるで遠い昔のことのように感じた。
王妃としての務めと王家の森の管理を並行して行うことなど無理だとわかっているが、一生森で生きていきたいと願っていたサヤにとって、今の状況は切なくもある。
たくさんの洋ナシがなっている木々の間を歩きながら深呼吸をすると、さわやかな香りがサヤの心を落ち着かせた。