王太子の揺るぎなき独占愛
「ねえ母さん、私も知らないことを、どうしていろいろ知ってるの?」
「え、これも城下ではかなり広まってるわよ。でも、そうね。陛下から本家にこのことに関する書状が届いたらしくて、途端に本家は大騒ぎ。で、使用人たちが書状の内容を知って、ついついしゃべっちゃったみたいよ」
「ついつい……」
陛下からの大切な書状の内容を漏らすだなんて、だめだろう。
サヤは顔をしかめた。
「あ、そうだわ。今年はワインの出来がかなり良かったでしょう? 売り上げもかなりあったらしくてね、利益の一部をぶどう農家のひとたちが病院に寄付してくれたのよ。まあ、レオン殿下が指揮を執ってぶどう畑の土地の改良から初めて五年。ようやく実を結んだってことね」
「あ……そうなんだ」
サヤは、この国が周辺国の中でもぶどうの収穫高がとくに多く、質の高いワインを生産していることは知っていたが、今年のワインの出来がどうだったのかまでは知らなかった。
交易の主力商品であることなら王妃教育で教わったが、具体的に聞くのは初めてかもしれない。
「去年もまずまずの出来だったけど、ようやくレオン殿下とワイン農家さんの努力が実を結んだってことね。レオン殿下も大喜びだったそうだし」
「そう……」
レオンがワインについて口にしたことはない。
というより、彼が公務について話すことはあまりない。
最近は国王代行という立場からか、かなり忙しく、サヤと顔を合わせることすら滅多にない。
あと四カ月で結婚するというのに、互いの距離を縮めることすらできずにいる。
忙しいせいか、今日、作業部屋で見かけたレオンは痩せていたなと、サヤは思い出した。
「ねえ、王家には国内の各ワイン農家さんが作った中で一番おいしいもの毎年が献上されるって有名だけど、本当にそうなの? 食事のときに飲ませてもらったの?」
カーラはワクワクしながらサヤの返事を待っている。
ワイン好きのカーラは、城下におりたときには必ずワインをいくつか買って帰る。
それだけでなく、マリアの店に立ち寄り、ワインとおいしい料理を楽しむことも多い。
「ねえねえ、いつかサヤが立派な王妃殿下になったときでいいから、王城でワインと極上のお料理をごちそうしてね」
本気で言っているのかどうかわからない声のカーラに、サヤは呆れた表情を見せ、息を吐き出した。