王太子の揺るぎなき独占愛


「一人前の王妃殿下になんて、いつなれるかわからないよ」

 ただでさえ王妃になることへの不安でいっぱいだというのに、カーラのあっけらかんとした言葉に、力が抜けてしまった。
 サヤは、どっと疲れを感じ、刺繍の練習に集中するからと言って、自分の部屋に戻った。
 刺繍をしようと針を手にしても、なかなか集中できず何度も針を指に刺した。
 痛みを覚えながらも頑張ろうとするが、気持ちがなかなかのってこない。

「あー、もう、やだ」

 サヤは部屋の脇の小机に布を放り出し、ベッドに飛び込んだ。

 子どもの頃から使っているベッドは、ダスティン手作りの頑丈なものだ。
 お気に入りの布団はほどよい柔らかさで寝心地もいい。
 嫁ぐ際には王城に持ち込みたいのだが、その話を切り出す前に、レオンはふたりで使うベッドを既に注文し作らせていた。
 ウェディングドレスにしても、サヤの希望を取り入れつつも、結局はレオンが細部にまで自分の好みを主張したものに決まった。
 レースやパールがふんだんに使われ、バックリボンがとてもかわいいドレスだ。

 華美なドレスは自分には似合わないのに……。

 これまで舞踏会にも参加することがほとんどなく、ドレスを着る機会などなかったに等しいサヤは、ドレスの出来上がりが楽しみでもあり、不安でもある。
 いざウェディングドレスを着ても、似合わなかったときにはどうすればいいのだろうかと、鬱々としている。

 
< 146 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop