王太子の揺るぎなき独占愛



 そんな有言実行で愛情深いレオンが王位に就くことを、国民はみな喜んでいる。
 サヤはベッドからむくりと起き上がり、ため息を吐く。

「そんな素晴らしいひとと私じゃつりあわないと思うんだけど」

 イザベラがラスペードに行くことを、カーラは知っていたのに次期王妃の自分は知らなかった。
 それに、今年のワインの出来が素晴らしいことや、各ワイン農家から一番出来がいいワインが王家に献上されることも、知らなかった。
 カーラだけでなく、国民の多くが知っていることだというのに、なにも知らない。
 その事実に、サヤはひどく落ち込んだ。
 
 そしてふと気づく。
 王妃教育で教わっていることの中にも、知っていて当然のものがあり、それ以外にも、サヤだけが知らないものが、あるかもしれない。

「あり得る……」

 サヤは肩を落とし、これまでになく重い気持ちを抱えながらベッドを降りた。
 そしてバルコニーに出ると、敷地に隣接している王家の森を見つめた。
 すでに日は落ち、辺りは暗いが、木々のざわめきと闇に揺れる影が感じられる。
 王妃に選ばれてからというもの、それまでのように森で過ごす時間を確保できず、仕事はすべて任せている。
 サヤはこれまで、一日中森のことを考え、自分の時間のほぼすべてを森に捧げていたと言ってもいいほど森に愛情を注いでいた。
 そのことを後悔するつもりはないが、森以外のことに関心を持たず、知っていて当然のことを知らずに生きていた自分を情けなく思えた。。
 そして、森以外のことにも興味を持ち知識を増やしておけばよかったと感じていた。

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