王太子の揺るぎなき独占愛



 サヤはじっと森を見る。
 見慣れているはずの闇に浮かぶ森の姿が、今までと違って遠くにあるように思えるのは気のせいだろうか。
 思い悩むサヤの体に、一瞬強い風が吹きつけた。
 その風に乗り、森の緑の香りが運ばれてきた。
 その中にはサヤが丹精を込めて育てていたユリの香りが混じっているような気がした。
 たおやかに咲くユリを思い出し、これからもキレイな姿で見る人の心を和ませてほしいと願うが、同時に切なさもあふれてくる。
 サヤが森に行かなくても、木々は育ち花は咲き誇り、そして薬草もその役目を知っているかのように力強く育つ。
 そう、サヤがいなくても、森はその姿を変えることなく順調に息吹いていくのだ。

「なんだか、寂しい」

 サヤは苦笑しながら部屋に戻り、投げ出したままの布と刺繍針を手に取った。
 丁寧にしわを伸ばし椅子に腰かけると、気持ちを整えるように目を閉じた。
 そして、思い出したように首にかかっているチェーンを引っ張り、胸元からエメラルドのペンダントを取り出した。
 部屋の明かりにかざすと、鮮やかな緑が乱反射し、見とれるほど美しい。

「幸福。夫婦愛」

 レオンから教わった宝石言葉を口にする。
 そして、このエメラルドをサヤの首にかけたときのレオンの表情を思い出した。
 今でもサヤの頬を熱くするほどの優しい顔で、それこそとろけそうな甘い言葉を口にしたレオンは、とても幸せそうだった。

「レオン殿下……会いたい」

 サヤはエメラルドを見つめながらぽつりとつぶやいた。


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