王太子の揺るぎなき独占愛


 手にしている刺繍はまだまだ粗くひとに見せられるようなものではない。
 おまけに森のこと以外なんの知識もない。
 それどころか今では森にも必要とされていないのだ。
 そんな自分が、この国の王妃としてふさわしいわけがない。
 イザベラの方がレオンを支えるにふさわしいと、思わずにはいられない。

「でも、でも……やっぱり、レオン殿下が好き」

 イザベラはエメラルドに軽くキスをし、再び胸に戻した。
 こんな子どもじみた恋心だけでレオンを支えられるわけがない。
 それはサヤ自身が一番わかっているのだが、森を一途に愛しその身を捧げてきたサヤの性格は、状況が変わってもなお一途なまま。
 子どものころから温めてきたレオンへの恋心が簡単に消えることはないのだ。

「とりあえず今は、ビオラの刺繍に集中しなきゃ」

 ほんの少し涙が浮かんでいた目を何度か瞬かせ、サヤは刺繍に取りかかる。
 ひと針ひと針、レオンへの思いと国の繁栄を願いながら。

「いたっ。もう、どうしてこの針は思うように動いてくれないんだろう」

 針が刺さり、じわりと血が浮かんでいる指先をサヤは睨む。
 ジュリアのように素晴らしい刺繍が施せるようになるまで、あとどのくらいかかるだろう。

 サヤはその夜遅くまで、ビオラ……のような刺繍に悪戦苦闘していた。







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