王太子の揺るぎなき独占愛
レオンはそれらをよけながらジュリアに近づいた
途中、ジュリアが子どもの頃に母親である王妃から誕生日にプレゼントされた赤い靴を見つけ、足を止めた。
「懐かしいな。どこに行くにもこの靴を履いていたっけ」
レオンはそっとそれを手に取り、口元を緩めた。
ジュリアが五歳の誕生日にプレゼントされたその靴は、彼女の大のお気に入りで、成長し、サイズが合わなくなった後も無理をして履き続けていたものだ。
「それにしても、なんなんだ? 結婚前の大掃除でもしてるのか?」
「違うよ。まだまだ着られる洋服ばかりだから、教会に寄付しようと思って」
ジュリアは並べられたドレスを一着ずつ確認している。
「寄付って、どうして急に? それに、体調はいいのか? 朝から寝込んでいたんだろ?」
レオンの心配する声に、ジュリアは笑顔を見せた。
「単なる寝不足と疲れだから大丈夫。たくさん寝て、サヤ手作りの洋ナシのパイを食べたらすぐに復活しちゃった」
にんまりと笑うジュリアに、レオンは大きく反応した。
「サヤの洋ナシのパイ? は? サヤがここに来たのか?」
「そうよ。もともとお兄様の即位式で着る軍服の刺繍を教えてあげる予定だったんだけど。私が体調を崩してるって聞いて、パイを焼いて持ってきてくれたの」
ジュリアは目を細め、くすくす笑い声をあげた。
「そんな怖い顔をしないでよ。まあ、予想してたけど、ほんと、お兄様ってサヤのことが大好きなのね。それに、洋ナシのパイは大好物だものね」
「……悪いかよ。で、サヤは? それに洋ナシのパイはどこだ?」
からかうジュリアを構うことなく、レオンは部屋の中を見回すが、もちろんサヤがいるわけもなく、洋ナシのパイが残っている気配もない。