王太子の揺るぎなき独占愛
「サヤならとっくに帰ったわよ。今日は刺繍の練習だけで王妃教育の予定もなかったし。ちなみにおいしいおいしい洋ナシのパイは、私が全部食べました」
「はあ? ホールごと全部食べたのか?」
目の色を変えて大きな声を上げるレオンに、ジュリアは「もちろん」とうなずいた。
「私のために焼いてきてくれたんだもの、そりゃ全部食べるわよ」
「なっ……。俺の大好物だって知ってたら残しておいてもいいだろ」
「あーあ。そんな子どもみたいなことを言って、次期国王とは思えないわね」
ぶつぶつ言っているレオンに、ジュリアは肩をすくめた。
「それに、単なる洋ナシのパイではなくて、サヤが焼いてくれた洋ナシのパイが好きなのよね?」
レオンはくすくす笑うジュリアを軽く睨むが、当たっているだけに迫力もなく意味がない。
そのとき、侍女が一着のドレスを手に取り、ジュリアに見せた。
「このドレスは今年の春、城下の学校の入学式の挨拶で着られたものですが、ジュリア様が手作りされた貴重なドレスです。こちらも寄付されるのですか?」
侍女が手にしているのは淡い水色のドレスで、ウェスト部分に切り替えがあり、いくつかのプリーツで多少ふんわりとしたシルエットを作ったもの。
胸元は白いレースで首まで覆われ、膨らんだ袖口も、同じレースが使われている。
舞踏会で着るような華やかさはないが、学校で挨拶をするということを考え、簡素なデザインを心がけて作ったジュリアの力作だ。
「素敵な出来栄えのドレスですし、手元に残されてはいかがでしょう?」
ドレスを眺めている侍女に、ジュリアは苦笑した。
「素敵な出来栄えだからこそ、寄付するのよ。城下の人たちはこんな動きにくいドレスを着る機会はないかもしれないけど、質のいいものばかりだから、きっと高く売れるはずだもの。教会の役に立つわよ」
迷いのないジュリアの言葉に、侍女も渋々うなずいた。