王太子の揺るぎなき独占愛



 たしかにここに並んでいるドレスや靴はみな上質なものばかりだ。
 一国の王女の物だと考えれば当然だが、売ればかなりの値が付くに違いない。

「もしかしたら、教会にきた子どもたちがこのドレスを見て、舞踏会ごっこなんて始めたりして。そのときはダンスを教えてあげるんだけどなあ……って言っても、私はもうここにはいないんだった」 

 ははっとどこか寂しそうに笑うジュリアに気づき、レオンの心も揺れた。
 政略結婚だとはいえ、ジュリアは愛するオトコと結婚できるのだ。
 王族に生まれ、いずれは国の安定に通じる結婚を強いられる立場だということを考えれば、奇跡のような結婚だ。
 それでも国を離れる日が近づき、寂しいのだろうとレオンは感じた。

「それにしても、どうして突然寄付なんて言い出したんだ? もちろん、俺は賛成だが、もっと早く準備をすればよかっただろう」

 この場の空気を変えるように、レオンが明るく問いかけた。
 
「そうよね。もっと早く思いつけばよかったんだけど。今日、サヤに作業部屋のものを全部譲ったあとで、突然思いついたのよね。洋服や靴も、有効活用できるんじゃないかって」
「は? 作業部屋?」
「そうよ。ラスペードでも私のために作業部屋を用意してくれたし、布や糸もふんだんにあるからなにも持ってくる必要はないってステファノ王子がおっしゃって」

 ジュリアはそう言って、頬を赤く染めた。
 ステファノを思い出したのだろう。
 レオンはその姿にくすりと笑った。
 ステファノの子どものころからのジュリアへの溺愛ぶりは相当なもので、呆れるのを通り越してあっぱれだと思うことも多い。

「で? ステファノはジュリアが嫁いできてくれればなにも持参しなくていいって言ったか?」 

 からかうように言えば、ジュリアは赤い顔でこくりとうなずいた。
 レオンはジュリアがこの結婚を、寂しさ以上に楽しみにしているとわかり、ホッとした。


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