王太子の揺るぎなき独占愛
サヤとレオンは、結婚するまでは別の部屋を与えられているのだが、サヤが温室で気を失って以来、ふたりの距離は近づき、就寝する直前までレオンの部屋でともに過ごすことが増えた。
毒について、改めて話すことも、サヤがすでに作り終えたと知らせることもないが、いわゆる薬草の詰め合わせであるそれを、サヤは心のどこかでいつも意識していた。
レオンの笑顔の向こうに、その存在を感じるのだ。
以前ほど苦しむこともなく冷静に受け入れているのだが、その存在の理由が見つけられずにいた。
このさき、万が一にでもレオンが自ら命を絶たなければならないときがきたとしても、あの毒であればすぐに調合し、与えることができる。
それなのにどうして事前に、それも結婚前に作っておかなければならないのだろうか。
そして、シオンが言っていたお守りという言葉もサヤの心に強く残っている。
なにもかも、わからない。
王妃となり、レオンと共に国のために生きていればわかるときがくるのだろうか。
誰にも聞けずにいる問いは、答えを見つけ出せないまま、サヤの中に居座り続けていた。
「サヤも一緒に紅茶を飲みましょうよ。まだ温かいわよ」
手招きするジュリアにうなずくと、サヤはジュリアの向かいに腰をおろした。
「そういえば、ラスペードは紅茶の産地なのよね。楽しみだわ。あ、よければサヤとお兄様にも送るわね」
「はい。楽しみにしておきますね」
そのとき、ドアをノックする音が響いた。
誰だろうとサヤとジュリアは顔を見合わせる。
「どうぞ、いいわよー。あ、でも部屋中ひっくり返ってるから気をつけてね」
ジュリアの声が響いてすぐ、ゆっくりとドアが開き、ジークが顔をのぞかせた。
「そろそろお済みで……いらっしゃらないようですね」
がっかりした表情を見せながらも、ジークの声は明るい。
きっと、それほど整理が進んでいないだろうと予想していたのだろう。
ジュリアはジークの言葉に肩をすくめた。