王太子の揺るぎなき独占愛
「全部サヤに譲るから、ジークも片づけを手伝ってあげてね。あ、お礼状も書いて送っておいてほしいんだけど」
「承知いたしました。祝いの品が届けられるたび、どなたから何が贈られたのか、ちゃんと控えておりますので大丈夫です」
ジークは、足元に気を付けながらサヤたちのもとにやってくると、両手で大事に抱えていたものを、サヤに差し出した。
「レオン殿下が即位式でお召しになる軍服でございます」
「あ……これが……?」
サヤは目の前の軍服を、両手でそっと受け取る。
ずっしりとした重みを感じ、レオンが背負う国王としての責任の一端に触れた気がした。
ゆっくりと広げれば、ロイヤルブルーが目に鮮やかで、詰襟と袖の部分には金糸で丁寧に刺繍がほどこされている。
着丈が長めなせいか、あわせ部分の金ボタンは広めの間隔で五つ、並んでいる。
ウエスト部分が少し絞られていて、長身のレオンに似合いそうだと、サヤは表情を緩めた。
「お兄様に似合いそう。まあ、見た目がいいからなにを着てもそれなりに似合うんだけど。やっぱり即位式で着るだけあって、刺繍もなり手が込んでるわね」
ジュリアは軍服の袖や詰襟部分を熱心に見る。
刺繍が得意なだけあって、気になるのだ。
「あ、金色の刺繍糸も丈夫でいいものを使ってるわ。いいなあ、この糸、ほしい」
ジュリアはそっと刺繍に触れると、「この抜群のなめらかさを出すなんて、職人の意地とプライドを感じるわ」と夢見心地でつぶやいた。
たしかに立派な軍服で、丁寧に仕上げられたものだが、サヤはジュリアのように、夢見心地になどなれそうもない。
「これだけの刺繍ができる人ってどんな人だろう。一度お会いして修行させてもらいたいわ」
食い入るように軍服を見つめるジュリアの傍らで、サヤはいよいよこのときが来たと、緊張感で震えた。