王太子の揺るぎなき独占愛



 何度も練習を重ね、サヤの刺繍の腕は格段にあがっていた。
 それこそ寝る間も惜しんでの練習は、サヤの指を傷つけ、布に血の跡が残るほど続いた。

 レオンの健康と、国王としての責任を無事に果たせることを願い、サヤは一生懸命練習に励んだのだ。

 その努力が自信となり、サヤはいざ軍服を目の前にしても慌てることなく、落ち着いて針に糸を通した。

 そして、軍服の袖の裏地にゆっくりとひと針目を刺した。

 ビオラの刺繍がほどこされると決まっている裏地は、紫の刺繍が映えるよう、白と決められている。

 作業中、裏地を汚さないよう気をつけながら、ひと針ひと針心を込める。

 夫婦愛という花言葉はサヤのお気に入りで、刺繍の練習中にも何度も口にしては不器用な自分を叱咤した。

 そんな日々を思い出しながら、サヤは丁寧に手を動かした。

「レオン殿下が健康でありますように」

 濃い紫の糸で、ひと針。

「ファウル王国の平和がこの先も長く続きますように」

 ほんの少し淡い紫の糸でひと針。

「レオン殿下といつまでも仲の良い夫婦でいられますように」

 白い糸でひと針。

 ジュリアから譲り受けた作業部屋でひとり、サヤは刺繍を続ける。

 やわらかな日差しが注ぎ込み、彼女を照らしている。

 国を思い、レオンを愛するサヤは、長い時間をかけて刺繍を完成させた。

「殿下が気に入ってくださればいいけど」

 白地に浮かびあがった紫のビオラは極上の出来映えで、サヤは長く続いた緊張感をようやく解くことができた。



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