王太子の揺るぎなき独占愛
サヤは刺繍を終えた軍服を胸に抱え、レオンがいるはずの執務室をたずねた。
ノックのあとドキドキしながらドアを開ければ、山積みの書類を片づけていたレオンがまるでサヤを待っていたかのように、両手を広げた。
サヤは弾むように駆け寄ると、レオンの胸に飛び込んだ。
「お疲れ様です……」
「ああ、サヤも疲れただろう?」
レオンは軍服に気をつけながら、サヤを癒すように抱きしめた。
「サヤが作業部屋にこもっていると聞いてから、書類の文字も目に入らないくらいそわそわしていたんだ。自分が任された仕事なら緊張することもないが、サヤが俺のために頑張っていると思うと、なにも手につかなかった」
サヤの頭上で、レオンの笑い声が響いた。
軍服が出来上がって以来、サヤがいつ刺繍を始めるのかと、レオンをはじめ城にいる多くの者が気にかけていた。
数日後にジュリアの結婚式を控え、連日続く祝宴だけでなく、ジュリアが王家から離れるにあたっての神事が続き、まとまった時間がとれないサヤを心配する声も多かった。
ジュリアの結婚式が終われば余裕ができるのだが、ジュリアから刺繍を教わっていたサヤは、彼女が嫁ぐ前に刺繍を終えようと思っていた。
出来上がったものを、ジュリアに見せたかったのだ。
そして、ようやく半日の時間をとることができた今日、サヤは作業部屋にこもった。
努力は裏切らないという言葉通り、サヤが咲かせた紫のビオラは極上の出来映えで、サヤの努力を間近で見ていたレオンはそれを見て感動した。
「袖を通すのは即位式のときだけと決まっているが、早く着たくてたまらないな。サヤの心がこもったビオラが、俺に力をくれるはずだ」
レオンの潤んだ目を見て、サヤの胸も熱くなる。
刺繍が苦手なサヤを、レオンが心配していることを、サヤは申し訳なく思っていた。
王家の森のことだけでなく、それ以外のことにも努力を重ねるべきだったと何度も悔やんだ。