王太子の揺るぎなき独占愛
「もちろん、この刺繍に思いを込めましたが、私自身も殿下のために精一杯力を尽くしますから」
視線を上げ、力強いこえでそう言うと、サヤは気持ちを整えるためにいちど深呼吸をした。
そして、再び口を開いた。
「新しい国王のもとで国が発展し、平和なときが長きにわたり続くよう、お祈りいたします」
なめらかな声が、部屋に響いた。
サヤは、刺繍を終えた軍服を新しい国王に手渡すときにはこう述べるのだと、シオンに教わっていた。
刺繍の出来映えも気になっていたが、この文言をうまく言えるだろうかと緊張し、昨夜はベッドの中で何度も繰り返した。
「は……? サヤ?」
まさかサヤがその言葉を述べると思っていなかったレオンは驚きの声をあげたが、すぐに顔をくしゃくしゃにして笑った。
「その言葉、いつ覚えたんだよ」
勢いよくサヤを抱きしめたレオンは、そのあとしばらくの間、うれしそうに笑い声を上げていた。
ようやく落ち着くと、サヤを抱いていた手を緩め、その顔を覗き込んだ。
そして意味ありげに口元を上げたかと思うと、力強い声でサヤの心を揺らした。
「新しい王妃の支えのもと、国の輝かしい未来に向けて努力を重ねることと、夫婦仲睦まじく年を重ねることを、誓う」
新王妃の言葉に呼応する新国王の言葉。
レオンもラルフから教わっていたのだ。
それを聞いたサヤは、あっという間に目を潤ませ、そして涙をこぼした。
まさか、自分の言葉に応える言葉があるとは聞いていなかったのだ。
サヤはレオンが口にした言葉を口の中で繰り返した。
たとえ、慣例にのっとった、あらかじめ決められている言葉だとしても、レオンが夫婦仲睦まじくと誓ったのだ。
言葉を失うほどの熱い思いが、サヤの体に溢れ出す。
もちろん、レオンのサヤへの愛情を疑っていたわけではないが、真摯に口にしたその言葉の意味は重く、サヤの心を揺さぶった。
「わ、私も、夫婦仲睦まじく、年を重ねると、誓……い、ます」
サヤもレオンの言葉に答えるように気持ちを告げたが、最後は涙でくぐもり、レオンには届かなかった。
それでも、レオンの目をまっすぐ見ながらつぶやいたサヤの気持ちは、しっかりと伝わった。