王太子の揺るぎなき独占愛




 レオンはサヤの涙を拭い、そっと唇を重ねた。

「あー、じれったいな。即位式も待ち遠しいが、結婚式はもっと待ち遠しい。早くサヤを一晩中抱いて、愛し合いたい」

 我慢できないとばかりにそう言ってみても、王家のしきたりを破ることは難しく、レオンは肩を落とした。
 しかし、いったんサヤを抱きしめれば、そのまま自分の部屋に連れ帰り、閉じ込めてしまいたくなる。

「いっそ、ジークにばれないように……」

 このまま夕食も食べず、部屋でサヤを抱いてしまおうか。
 許されないとわかっていても、レオンのために見事に王妃としての義務を果たし、素晴らしい刺繍を終えたサヤが愛しくてたまらないのだ。

「殿下?」

 サヤが視線を上げれば、厳しい表情を浮かべ、耐えるように考え込むレオンの姿が目に入った。
 それはサヤが初めて見る表情で、物憂げに伏せられた目元や引き結ばれた口元に、ドキリとした。

「殿下……」

 たった今まで刺繍の出来映えに喜び、サヤが慣例である文言を口にすれば感激の涙を浮かべていたというのに、なにを考え込んでいるのだろう。
 サヤの遠慮がちな声に、レオンは視線を向けた。

「いや、なんでもない。ただ……俺は幸せだと感じていただけだ」
「幸せ……ですか。はい、私も、とても幸せです」

 サヤは躊躇なくそう言った。

 王家に嫁ぐことへの不安は大きく、立派な王妃になる自信もない。

 それでも、ほかの誰でもなく大好きなレオンと結婚できる喜びは、そんな不安を吹き飛ばすほど大きい。
 結局、どれほどの不安を抱えていても、レオンに愛されていれば彼女は幸せなのだ。
 それはレオンにも当てはまり、王位に就く不安に押しつぶされそうになったときにも、サヤが側にいるだけで乗り越えられたのだ。

「こうして腕の中にサヤがいるんだ。これが幸せでなくて、なんだろうな」

 サヤを抱きしめながら、レオンは楽しそうに体を揺らした。

「私も、殿下に抱きしめられるだけで、強くなれそうな気がします。それに、怖いものなんてなにもない…あ、でも暗いところは怖いですけど……」

 サヤは恥ずかしそうにそう言って顔を赤らめた。


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