王太子の揺るぎなき独占愛
「かなりの人数の作業員たちが働いているはずだ。みな無事なのか?」
「はい。人質となっているのは約十名で、今のところケガもなく無事だと聞いています。不審者は五名前後で、事務所に爆薬を持ち込んだもようです」
「爆薬……ふざけたことを」
レオンは怒りで歪んだ顔を歪め、こぶしを握り締めた。
「で、要求はなんなんだ」
「ラスペードのステファノ王子とジュリア王女の結婚を取りやめろと。おそらく、両国の関係が強化されることで周辺国への影響力が強まることを懸念した小国の一部が差し向けたのだと思われます」
「愚かな。大国の安定によって交易も盛んになり、小国への物資の供給や援助も増えるというのに」
レオンは手にしていた短刀を胸元に戻すと、サヤを振り返った。
サヤは胸の前で両手を組み、不安げにレオンを見つめている。
「殿下、大丈夫ですか?」
サヤはレオンの厳しい表情と、騎士の言葉から、状況の深刻さを理解した。
国境沿いの現場では、ラスペード王国から派遣された作業員たちも加わって順調に採掘が始まっている。
その埋蔵量はかなりのもので、両国だけでなく、周辺国の発展への寄与が多いに期待されている。
レオン自ら各国に出向き、生活水準の向上のために尽力すると約束を交わしたばかりだというのに。
「どの国のバカがしでかしたのかわからないが、放っておくわけにはいかない」
レオンは鋭い視線をサヤに向けた。
その表情は、王太子ではない、国王としての自覚に溢れている。
ついさっきまで見せていた甘くとろけそうな姿は消え、国を守ろうとする威厳すら感じられた。
「しばらく城を空けることになるが、すぐに戻る。陛下と王妃殿下のことを、よろしく頼む」
「……はい。承知いたしました」
溢れる不安を隠すようにサヤはうなずいた。
それでも、震える体はどうしようもなく、レオンが発する張りつめた空気に気おされそうになる。