王太子の揺るぎなき独占愛
「長くはかからない。ジュリアの結婚式には十分間に合うから安心していろ」
レオンは力強くうなずき、手の甲でサヤの頬をするりと撫でた。
ひととき、ふたりは見つめ合う。
軍服への刺繍を終え、王妃になる自覚が芽生えた途端の事態に、サヤの胸は痛んだ。
しかし、惑うことなく立ち向かおうとするレオンに、そんな弱い姿は見せたくはない。
すでに心はファウル王国の王妃だ、大丈夫だと視線で伝え、ゆっくりとうなずいた。
レオンはサヤの意を正確に受け止めると、再び騎士に振り向いた。
「至急ラスペードに早馬を出せ。両国騎士団の総力を挙げて解決にあたる」
「はい、すぐに手配いたします」
「あと、騎士たちをすべて召集しろ。第一団から第三団は準備が整い次第現場に向かい、第四団と第五団は王城を守るために残る。そして、第十団までは城下の警備にあたる。いいな」
「わかりました」
騎士はそう言って立ち上がると、深く一礼し、慌ただしく部屋を出て行った。
「王城の警備は万全だから心配するな。城下と王家の森にも騎士団を寄越す」
「はい、こちらは大丈夫です。殿下もお気をつけて」
「ああ、安心して待ってろ。ジークも、頼んだぞ」
「え、あの、レオン様、大切なお体ですから、十分お気を付けてくださいませ」
「ああ。わかってる。しかし、どの者の体も大切だ。ジークも体を大切にしろよ。城内を走ったくらいで息が上がるようじゃ、俺とサヤの子どもの世話はできないぞ」
レオンはそう言って笑うと、サヤにゆっくりとうなずいた。
部屋の外は俄然騒がしくなり、大きな声が飛び交い始めた。
採掘場での騒ぎが知らされ、使用人たちも慌てているのだろう。
その慌ただしさにつられ、サヤの心も落ち着きを失いそうになるが、ここでしっかりしなければ、レオンに要らぬ心配をかけることになる。
「殿下、無事にお帰りくださいませ」
凛とした声でそう言って、深くお辞儀をした。
レオンは一瞬切なげに目を細めたが、すぐに表情を整えた。
「俺が戻ったら、サヤの部屋にあるものをすべて俺の部屋に移そう」
レオンは、そう言って部屋を出て行った。
サヤはレオンが一刻も早く戻ってきますようにと願い、ぎゅっと目を閉じた。