王太子の揺るぎなき独占愛
「ラスペードの国王はなんとおっしゃってる?」
レオンは脇に控えるラスペードの騎士団長、フェリックに尋ねた。
そろそろ五十歳になるフェリックはその人柄と剣の腕前で騎士団長として長年王家に仕えてきた。、
周辺国にもその名を知られているほどの酒好きという点も含め、一途に騎士道精神を貫く彼を慕い、騎士団に入団する若者は多い。
おまけに王家に自分の意見を言える唯一の存在でもあり、国民からの信頼も厚い。
他国の人間ながら、レオンもフェリックのこれまでの功績を尊敬し、一目置いている。
「国王陛下は、この状況に胸を痛めておいでですが、現在、いくつかの国への視察を終えて帰国の最中でございます。早馬を走らせ確認いたしましたが、レオン殿下が現場にいらっしゃるのなら、すべて一任するとおっしゃっておいでです」
フェリックが丁寧な口調でレオンに伝えた。
「じゃあ、両国の騎士が誰ひとりとして傷つかないよう、作戦を練るか」
レオンは少し離れた場所にある作業事務所に視線を向けた。
採掘現場に近いその事務所は、少し前にもボヤ騒ぎがあり警備を強化していたのだが、犯人たちは作業員の交代による慌ただしさを狙い、侵入したのだろう。
「犯人が農民だとすれば、彼らに指示した人間がいるだろうな。ジュリアとステファノ王子の結婚を妨害したいやつが」
「そのことでございますが、目星はついております。お恥ずかしい話ながら、我が国の筆頭公爵家であるミリエッタ家がきっと……後ろで糸を引いていると思われます」
フェリックの言葉に、ラスペードの騎士たちは驚くことなくうなずいた。
「ミリエッタ公爵は国王陛下の遠縁にあたるのですが、そのことに甘え、なにかとミリエッタ家への厚遇を求めてくるのです。陛下もそれには困っておられるのですが、争いを好まない方ゆえ、とくに何もなさらず……」
恐縮するフェリックの言葉に、レオンは苦笑した。