王太子の揺るぎなき独占愛
そして作業台に戻ると、大きく広げられていたピンクのドレスを再び手に取った。
そして、針山に戻していた針を、すっと抜き取った。
さっきまで震えていたのが嘘のようにしっかりと針を持つ手を見て苦笑する。
「あと少しで完成だわ」
サヤはピンクの刺繍糸を、丁寧にドレスの裾に刺した。
ほんの思い付きで始めた刺繍が、いよいよ出来上がる。
刺繍を始めた頃とは比べものにならないほどに上達した腕前を、ここできっちり発揮しよう。
そして、想像する。
自分の名前の刺繍入りのドレスを着たサヤを見て、レオンはどんな顔をするだろう。
ほんの少し照れながら「なにを着ても、俺の妃はかわいいな」とでも言ってほしい。
そんな言葉を言われたら、すぐにレオンの胸に飛び込むのにと、体中を熱くしながらサヤは目を細めた。
「よし、できあがり」
サヤは出来上がったばかりのレオンの名前を見つめながら、満足げに息を吐き出した。
ドレスのピンクよりもほんの少し淡いピンクで刺繍されたレオンの名前は立体的で、光に反射するととても美しく見える。
あとはレオンに見せるだけだ。
「早く戻ってほしいのに……」
寂しさをこらえ、ぽつりとつぶやいたそのとき。
部屋の外が慌ただしくなり、誰かがバタバタと走ってくる足音が聞こえた。
瞬間、サヤはレオンになにかあったのだろうかと体中が強張り、不安で動けなくなったが、同時に、なにがあっても受け入れなければならないと、覚悟を決めた。
そして、部屋のドアがノックもなく勢いよく開けられた。