王太子の揺るぎなき独占愛
「サヤ、まだここにいる?」
駆け込んできたのはジュリアだった。
息を切らし、苦しそうに膝に手をついている。
サヤがそんな彼女を見るのは初めてで、やはりレオンになにかあったのだろうかと、緊張した。
「サヤ、落ち着いてね。お兄様が……お兄様が」
ジュリアは呼吸の合間になにかを伝えようとしているが、よく聞き取れない。
サヤは立ち上がり、ジュリアのもとに駆け寄った。
「お水でももらってきましょうか?」
「う、ううん、大丈夫。それよりね、お兄様が」
「レオン殿下に、なにかあったんですか? まさか、殿下の身に……」
最悪の事態を想像し、サヤの声は震えた。
強くなろうと決めたばかりだが、再び涙がこぼれそうで、目の奥が熱くなった。
「ジュリア様、レオン殿下がどうされたのです? 教えてください」
不安を抱えながらも、サヤは問いかけた。
するとそのとき、ドアをノックする音が聞こえ、視線を向ければ、ジークが立っていた。
その表情はいつも通りの真面目でお堅いイメージそのままで、なにがあったのか、想像するのは難しい。
「今、早馬が城に到着いたしまして、陛下がレオン殿下からの伝言を受け取られました。今すぐサヤ様に謁見の間に来てほしいとのことです」
「え、伝言?」
「はい。サヤ様宛の伝言もあるそうです。お急ぎください」
淡々と話すジークの声や表情からは何も読み取ることはできないが、サヤは胸騒ぎを覚え、慌てて部屋を出た。
レオンになにかあったのか、それとも無事なのか。
気持ちを強く持とうと、何度も涙を堪えた。
そして、レオンからの伝言が届いているという謁見の間に急いだ。
「レオン、レオン……」
一度もこうして呼び捨てたことがなかったと、何故かこんなときに思い出しながら、サヤは全力で走った。