王太子の揺るぎなき独占愛
「新しい王妃がサヤ様っていうのも、ポイントが高いわよね」
「そうそう。ルブラン家本家のイザベラ様も女性騎士として格好いいけど、あのお優しいサヤ様が王妃殿下になられたら、城下のことにも詳しいし、私たち農民のことも気にかけてくれそうよね」
「本当にね。でも、この間病院に行ったらサヤ様がいなくて、ルブラン家の別の女性が薬をくれたの。なんだか寂しかったわ」
病に苦しむ人のため、薬草の知識を存分に発揮していたサヤは、生来の優しさと温かさで国中の者に慕われている。
次期王妃にサヤが選ばれたことに異論を唱えるものが誰ひとりいないどころか、そのことによってレオンの人気も高くなっているのだ。
「王家の森をとても愛してらっしゃるのに、王妃になっちゃったらなかなか行けないわよね。サヤ様にはつらいことよね」
レオンへの恋心を語り合っていた女性たちは、いつの間にかサヤの話に夢中になっている。
「薬草のことは誰よりもお詳しいからお医者様も頼りにしているものね。できれば今まで通り薬師のお仕事も続けていただきたいけど」
「まあ、無理よね」
その場にいた十人ほどの女性たちは皆、大きくうなずいた。
「仕方がないわよね。とにかくサヤ様がお幸せになるよう、祈りましょう」
話の中心にいる女性が、しんみりとした空気を振り払うように大きな声でそう言った。
そのとき。
「あら? 馬たちが戻って来たわよ?」
「まあ、本当ね。えっと、十頭くらいかしら」
女性たちだけでなく、ラスペードの騎士たちに手を振っていた大勢の村人が、それに気づき、目を凝らした。
今しがたラスペードの騎士たちが消えていった方向から、十頭程度の馬が一団となってやってくる。
遠目からでも砂ぼこりが激しく舞っているとわかり、かなりのスピードでこちらに向かっているようだ。