王太子の揺るぎなき独占愛
イザベラの背中に体をおしつけて必死でしがみついていた女性、それはサヤに違いない。
ピンクブロンドの綺麗な髪を背中で一本で編んでいたが、誰もがその姿に見覚えがあった。
イザベラの馬を騎士たちが取り囲んでいたのは、次期王妃であるサヤの警護のためだろう。
「それにしても、どうして?」
村人たちが疑問に思うのも当然で、立てこもり事件はすでに解決され、村人たちにも伝えられているのだ。
立てこもり事件の現場となった事務所では以前放火があり、それ以後防火体制が強化されていた。
放火の犯人は再びなにかしでかすだろうと判断したレオンの指示により、事務所裏手の山に、貯水槽をいくつか用意したのだ。
万が一のときには、貯水槽を固定しているロープを解く。
そうすると、貯水槽が反転し、中に貯めおいた大量の水が一気に事務所に流れ込む仕組みになっている。
事務所の壁面も改装し、貯水槽のロープを引いたと同時に壁の一部が開き、水が事務所の中にスムーズに流れ込むように工夫された。
ただ、今回初めて貯水槽を反転させたということで、予想以上に水が流れ込み、その爆音は麓にまで聞こえたほどだった。
水を流すと同時に騎士たちが事務所に飛び込み、人質となっていた作業員や犯人たちを無事に確保し、犯人たちが持ち込んだ爆弾は、事務所に流れ込んだ水に沈んで使い物にならなくなった。
幸いにもだれひとりとして命を落とすことなく解決し、ファウル王国とラスペード王国の関係はさらに強化された。
それだけでなく、両国から派遣された騎士は一千名だ。
採掘場に侵入したり、現場を荒そうとすればこれだけ大勢の騎士が解決にあたるのだと周囲に知らしめる牽制にもなった。
もちろん、レオンはこのことも含め、これだけの人数の騎士を現場に送り込んだのだ。
「採掘場での作業は明日から再開だって聞いたけど、いったいどうなってるんだろうね」
イザベラやサヤたちが通り過ぎたあとも、村人たちはあーでもないこーでもないと、話し続けていた。