王太子の揺るぎなき独占愛




「あーあ。生まれたてのバンビの足みたいよ」

 イザベラはサヤを受け止め、彼女のふらつく足元に苦笑した。
 そして、騎士たちに視線を向けた。

「レオン殿下の怒りを買いたくなかったら、必要以上にサヤに近づいたり迂闊なことはしちゃだめよ」

 まわりにいる十名ほどの男性騎士たちに、イザベラは面倒くさそうに言い聞かせる。

「あ、別に大丈夫ですよ。レオン殿下はなにも気にしないと……」
「あ? サヤは甘い。どうして私がこんなところにまでサヤを馬に乗せてきたと思ってるの?」

 イザベラの鋭い声にサヤは口を閉じた。

「レオン殿下がサヤを温泉に連れてこいっていうのは、まあいいのよ。立てこもり事件も無事に解決したから、せめて足湯だけでも一緒になんて、かわいいじゃない」
「う、うん……」

 イザベラに気おされるように、サヤはうなずく。

「だけど、サヤを男性騎士の馬に乗せることは許さないって、ほんと心が狭いわね。わざわざ私を指名して連れてこさせるなんて、その嫉妬深さにあきれちゃうわよ」
「あ……ごめんなさい」

 思わず頭を下げたサヤに、イザベラは眉を寄せた。

「サヤは悪くない。すべてはあの懐の狭いレオン殿下のせいなんだから。だけど、せっかくだから、私も足湯を楽しんで帰ろうっと。みんなもそうすれば?」

 イザベラは気持ちを切り替えるようにそう言って、騎士たちに声をかけた。

 ここは、採掘場がある山の麓で、広い温泉が有名なミレンカ村だ。

 栄養分を多く含んだ土地と、山からの水によって農業が発展し、多くの農民たちが米や野菜を作っている。

 その収穫高はかなりのもので、ファウル王国の食糧庫ともいわれている。

 今回立てこもり事件が起こった採掘場にも近く、駆けつけた騎士の一部が警護のためにミレンカ村に残っていたが、村人たちは不安な時間を過ごしていた。

 その後、解決したと連絡が入ったときにはホッと胸を撫でおろしたが、大量の水が放出された時の爆音には誰もが驚かされた。


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