王太子の揺るぎなき独占愛
それに、ルブラン家から王妃が召し上げられるという慣例も、聞こえはいいが実際は人質をとられるようなものだ。
王族の健康を預かり、薬を調合したり体調に合わせた食事を考えるというのは、裏を返せば王族の命を奪うこともできるということ。
王家の森で育てている薬草は、良薬になる一方で、調合次第で毒にもなる。
もしもルブラン家の者が王家に反旗を翻し、薬草の知識を利用して王族の命を狙うことがあれば、即家は取り潰され、全員命を奪われる。
たとえそのことによって王家の森の管理が滞るようなことがあっても、時間はかかるがルブラン家の代わりを育てればいいだけの話。
王家への反乱以上の大罪はないということだ。
とはいえ、国内が乱れればその間に他国から攻め入られることもあるだろう。国民の生活にも大きな影響が出るはずだ。
だから、ルブラン家の働きに対して潤沢な報酬と王妃を輩出する名誉を与え、ルブラン家が長きにわたり王家に仕えるよう配慮しているのだ。
王家とルブラン家の関係を理解しているサヤは、王家の森で働ければそれでいいと考えているのだが、やはり年を重ねるにつれ、結婚の話も増えている。
森を離れたくないというサヤの気持ちを汲むことなく、いずれ婿が決められるのだろう。
相手がファウル国内の貴族であれば、これまで通り森での仕事に励むことができるが、他国に嫁ぐ場合もまれにある。
そうなれば、森どころか国から出ることになる。 考えただけで憂鬱になる。
今朝、いよいよ陛下からサヤの結婚の話が出るだろうと聞いた途端、目頭が熱くなり涙がこぼれそうになった。
陛下の命令であれば、拒むことはできない。両親を困らせるわけにもいかない。
サヤは自分の気持ちにどう折り合いをつけていいのかわからず、森に逃げてきたのだ。