王太子の揺るぎなき独占愛
けれどその一方で、レオンの役に立てるのであれば、なにがなんでも身につけたいとも思う。
ここ数日、レオンがいなくなるかもしれないと悩み苦しんだ時間を考えれば、どんなこともできるような気がした。
馬も剣も、やってやれないことはないと思えるから不思議だ。
「私、思うがまま馬を乗りこなせて、剣さばきも抜群の王妃を目指そうかな」
ふと思いついたことを口にすれば、イザベラは大きく笑い「いいね、それ」と同意した。
「じゃあ、まずは馬に乗ったときに踏ん張るふとももの筋肉と、どれほど重い剣でもへこたれない腕力を鍛えなきゃね」
イザベラとの言葉にふたりは笑い合った。
冗談交じりに話しているが、サヤは本気で頑張ろうと思い始めていた。
王妃である以上、レオンだけでなく自分にも国を守る責任がある。
そのためにできることは何でもしようと決めた。
そのとき、ふたりの背後から石が転がる音が聞こえた。
イザベラは素早くサヤを自分の体の後ろに押しやり、胸元から短剣を取り出した。
温泉の周囲には騎士たちが見張りとして立っているが、くせ者が侵入したのかと、注意深く辺りを見回した。
すると、少し離れた場所からレオンがふたりのもとに向かっていた。
騎士服を身にまとい、足早に近づいてくるレオンの視線はひたすらサヤに向けられている。
「なんだ、レオン殿下か。あーあ。私のことなんて目に入ってないみたいね」
イザベラは脱力気味にそうつぶやいて、短剣を胸元にしまった。
「え、レオン殿下?」
サヤはイザベラの背後から顔をのぞかせた。
「殿下……」
サヤは温泉から慌てて出ると、レオンのもとに駆け寄った。
にっこりと笑い両腕を広げるレオンの姿を目の前にすれば、レオンの身を案じながら過ごした苦しい時間は一気に吹き飛んだ。
「殿下っ」
ごつごつとした石の上を覚束ない足取りで走ってくるサヤを、レオンは力強く受け止めた。