王太子の揺るぎなき独占愛



「お怪我はないのですか?」

 レオンと並び、足湯を楽しむサヤは心配げに声をかけた。
 見上げれば、レオンのあごにはかすり傷があり赤くなっている。
 痛くないのだろうかと手を添えれば、レオンがくすぐったそうに笑い声を上げた。

「これぐらい、大丈夫だ。ケガには入らない」

 レオンは軽くそう言うと、サヤの体を抱き寄せた。
 そして、サヤの首筋に顔を埋めると、ホッとしたように息を吐き出した。

「会いたかった……」

 レオンの口からこぼれた言葉にサヤも大きくうなずくと、レオンの背中に腕を回し抱きついた。

「私も、会いたかったです。ずっとずっと、心配で……」

 レオンから二度と離れまいとするように、サヤはしがみつく。

「ご無事だと知らされても、この目で見るまでは不安でたまりませんでした」

 気を張っていたのだろう。
 レオンが人払いをしふたりきりになった途端、必死で隠していた不安が顔をのぞかせ、一気に溢れ出した。
 疲れているに違いないレオンを困らせたくはないが、次々と言葉が口を突いて出てくる。

「レオン殿下がいなくなったらと考えて、私は……」

 涙声に変わったサヤの声が聞こえ、レオンは思わず手で顔を隠した。

 人払いをしているとはいえ、あたりには警護の騎士たちがいて、ふたりの様子を気にかけているはずだ。
 その中にはイザベラもいる。
 レオンはきょろきょろと周囲を見回した。
 サヤが泣きながら口にした自分への思いがうれしくて、にやけてしまう顔を見られたくないのだ。

 レオンは顔を手で隠したまま、いちど深呼吸をし、気持ちを落ち着けようとしたが。

「レオン……と、そう呼んでみたかったと、後悔しました」

 おずおずと顔を上げ、恥ずかしそうにつぶやくサヤの顔を見れば、いっそうレオンの表情は緩み、体は熱を帯びた。



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