【完】そして、それが恋だと知った日。

握る所がなくて。
代わりにショルダーバッグのひもを握った。


「映画、面白かったね。」


「そ、そうだね……。」


「ああいうの、女子って好きそう。」


「漫画も面白いよ。」


「マジで?買ってみようかな……。」


「そんなに巻数ないし。」


持ってるから貸そうか?
その言葉を言えなかった。


漫画を貸すのを誰かに見られたりして。
からかわれたらどうしようって。
そう思ったら、言えなかった。
恥ずかしいし、いらないって言われるかもだし。
あれこれ考えたら、言えなくなった。


それから何を話せばいいのか分からなくて。
それは伊澄くんも同じで。
公園につくまで無言のままだった。


「じゃあ、ここで。」


「うん、じゃあ。」


公園から先は違う道らしく。
私たちは分かれた。


ふたりだと全然うまく話せない。


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