【完】そして、それが恋だと知った日。
誰もいないのに挨拶してしまう。
なんか、癖なんだよね。
変なの。


ホワイトボードの前に置かれた暗幕を見つけて。
それを1組手に取る。
持ち上げようとすると案外重くて。
ひとりじゃとてもじゃないけど持っていけそうにない。


誰かと一緒に来たら良かった……。
もう空回りしてる。
変なこと考えた罰だよこれ。
また呼びに行くために階段降りなきゃだ。


さっきの辛い思いをあと2回しなきゃいけないと思うと気が重くなった。
めっちゃ手間かかるやつだあ。
頑張ってひとりで持っていこうかなあ、でもなあ。


ひとり迷っていると。
準備室の扉が開く音がした。
びっくりして音のする方を向くと。
少し息を切らした伊澄くんが立っていた。


「小笠原さん、取りに行くの見えて。
 その、ひとりじゃ大変だと思ったから……。」


手伝いに来た、と言った伊澄くんは。
暗幕を1組軽々持ち上げてしまった。


私じゃ持ち上げられなかったのに。
やっぱり、男の子だ……。


最初に話したあの日からもうすぐ1カ月が経つ。
あの頃はまだ半袖だったシャツも。
10月が近付いた秋の気候に合わせて。
長袖に変わっていた。



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