【完】そして、それが恋だと知った日。

いつもはうるさいくらいの教室の喧噪が。
今はどうしようもなく恋しかった。


案の定早く着いてしまって。
この後どうしようか、悩みながら教室へ向かった。
ガラリ、教室のドアを開けると。
窓際で外をボーっと眺める伊澄くんの姿が目に入った。


「い、ずみくん……。」


気付いた時にはもう遅くて。
会いたくて仕方なかった人に会えて。


いつも、こんな朝早くに来てるんだ。
だから登校の時1回も会わなかったんだ。


会えたことが嬉しくて、ぽつり言葉を漏らした。
小さな声だったけど。
誰もいない教室にはよく響いて。
自分の名前を呼ばれた伊澄くんはゆっくりとこっちに振り向いた。


呼んだのが私だと分かるとびっくりしたように目を見開いて。
『おがさわらさん』と形のいい唇が動くのが分かった。
声は聞こえなかったけど、そう言っているのが分かった。


本当は近くに寄って話をしたかった。
今まで話せなかった分、この誰もいない。
私と伊澄くん、ふたりだけしかいない教室で。
半年分の話をしたかった。


でも、私は、伊澄くんにひどいことをした。
謝りもせず、ずっと避け続けていた。
その事を思い出して、足がすくんだ。
地面に縫い付けられたように動かなかった。


平衡感覚がなくなってきて。
自分の身体がぐらぐら揺れている錯覚に陥る。


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