【完】そして、それが恋だと知った日。
手には汗がにじんで、喉はカラカラだ。
謝らなきゃ。伝えなきゃいけない。
ごめんなさいって、言わなきゃ。
分かっているのに。
頭の身体が切り離されたかのように。
言う事を聞いてくれない。
伊澄くんは私を見つめたまま目を逸らさない。
それがますます私の心をきりきりさせた。
どうしよう、どうしたらいいの……。
ふと視界が歪み始めた時。
「おはよう、早いんだね。」
そう微笑んで、伊澄くんが呟いた。
その瞬間、縫い付けられていた鉛のように重かった足が。
軽くなるのを感じた。
まるで、羽でも生えたかのようにふわり浮く。
こわばっていた身体も力が抜けて。
やっと、息ができるような気がした。
酸素が、頭にまで回っていく感覚がする。
身体が動くと分かってから。
私は一歩、また一歩伊澄くんの方へ進んだ。
ひと1人分あける距離まで近づいたところで。
私は、伊澄くんの目をしっかりみて言った。
「あの日は、ごめんなさい。」
頭が地面につく勢いで下げる。
ぎゅっと瞑った目を開けると。
視界にはプルプル震えた自分の足が見えた。
スカートの裾をきゅっと握って。