【完】そして、それが恋だと知った日。
伊澄くんの言葉を待った。


「気にしてないよ。」


そう、優しい声色で言った伊澄くんは。
顔をあげて、と続けて言葉を紡いだ。


恐る恐る顔を上げると。
困ったように笑う伊澄くんの顔が見えた。


「いや、気にしてないって言ったら嘘になるんだけど。」


「ご、ごめんなさい。」


「いいんだ。あんな中ふたりで回るとか恥ずかしかったし。軽率だった、よね。」


「そんな……。私が嘘ついたから。」


「俺もちゃんと確認しなかったし。
 小笠原さんは悪くないよ。」


名前を呼ばれるだけで胸がギュってなる。
あんなにひどいことをしたのに。
笑って許してくれる伊澄くんに苦しくなった。
もっと責めてくれればいいのに。
最低だって、言ってくれればいいのに。
人が良い伊澄くんにやっぱり苦しくなった。


「文化祭の事より、俺は。
 避けられてる方が、よっぽど……うん。」


辛かった、と言葉を濁すように言う伊澄くんに。
また、胸が苦しくなった。
私、二重に傷つけてた……。
半年、ずっとずっと伊澄くんのこと傷つけちゃってた。



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