【完】そして、それが恋だと知った日。
カレ取扱説明書
「宿泊研修とか何とか言ってるけどさあ。
結局は勉強合宿じゃんかよ!!」
バスの中、前の席に座っているすみれが小さな声で叫ぶ。
その隣で高橋くんがすみれの口の中にお菓子を放りこんでいる。
3年生、最初の行事は受験への意識向上を目的とした。
1泊2日、山での宿泊研修だった。
1日目の夜に展望台での天体観測があるんだけど。
それ以外に特に楽しそうな行事はなくて。
ずっと勉強だった。
確かに勉強づくめで嫌だったけど。
でも、伊澄くんと2日間一緒にいられると思うと。
嬉しくなった。
「小笠原さん。」
「どうしたの、苑田くん。」
「キャンディーいる?」
「何味?」
「シトラス、かレモン。」
「じゃあ、レモンもらおうかな。」
苑田くんの手のひらからレモンのキャンディーを受け取る。
ありがとう、と言うと苑田くんは少しぼーっとした後。
どういたしまして、と言って座った。
なんか、変な笑い方だった気がするけど。
もう一度苑田くんを見るといつも通りの笑顔だったから。
気にしないことにした。