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桜はまだ咲かない
まだ肌寒い春先のこと、固く閉じた蕾の下。
白い厚手の、編み目の荒いカーディガンの中、前立てにフリルがついた白いシャツ。
薄ピンクの、幾重にも生地が重なった膝丈のスカート。
赤紫、灰色、白、側面に菱形模様のついたタイツ、ヒールが低くて黒いパンプス。
背の中ほどまで伸びたこげ茶色の髪はゆるやかに曲線を描いている。
頭には赤いベレー帽。
クリーム色をした大きな肩掛けカバンを斜めにして歩いている。
輪郭はややふくよか、繭は細長く、黒く見える目は僅かに下がっている。
鼻は低く、丸い。唇は厚く、鴇色のグロスでぽってりとしている。
ファンデーションを薄く塗った白い肌に薔薇色のチークで血色良く。
小さめの耳には花弁を閉じ込めたキューブ型のイヤリング。
遠くに友人を見つけて右手を上げる。
中指には水色のスワロフスキーを1つ嵌めたシルバーリング。
石畳を蹴って走り出す。
重いものが入っているのでカバンがあっちへ跳ね、こっちで跳ね。
人に当たっても気づかず友人の元へ駆けていった。
少し痛む左腕が彼女に会い見えたことを証明している。
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