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水売りの少女


この街の狭い路地をいくつか抜けたところ。
真昼でも日の当たらない小さな広場。
数えれるほどの建物は裏側であるのに対して、1つだけ表に面したものがある。
アンティーク調というのか洋館の一部を切り取ってきたかの様な一軒家だ。
外には膝丈ほどで板がくるくると回る看板が置いてある。
看板の真ん中がさかなのシルエットにくり貫かれている。
中の様子を伺おうにも、窓には黒いカーテンが降ろされている。
扉は木製で硝子はない。少し扉を開けてみる。
蒼い光が漏れてきた。
中へと入ってみる。
そこは暗闇の中に様々な硝子の入れ物に入ったアオが、壁や天井で踊っていた。
引き寄せられるように1歩、また1歩と前へ出る。
「いらっしゃいませ」
凜とした声がかけられた。
「いらっしゃいませ。どのような水をお求めでしょうか?」
水?これは全て水なのか。
「えぇ、水です。と言っても普通の水ではありませんが」
橙色の髪をした少女が微笑を浮かべた。
普通じゃないとはどういうことだろう。
「童話に出てくるような延命の水や死に至らしめる水、脚を与えて声を奪う水などなど」
それは有名な童話の。
だったら永遠の命が手に入る水なんかもあるのだろうか。
「えぇ、ありますよ。それをお求めでしょうか?」
ことりと少女は首を傾げる。
朱の入った瞳が硝子玉の様に見えた。
暫くした後、首を横に降った。
ラムネを1つ、できれば瓶に入ったのを。
少女はきょとんとした。
次いでくすくすと笑い、頷いた。
出てきたラムネはとてもよく冷えていた。
「お代は結構ですよ」
少女が笑顔で言う。
じゃぁ、お言葉に甘えて。
「ありがとうございました」

外には出ると、乾いた空気が頬を撫でた。
なるほど、自分も渇いていたらしい。
ラムネを口に含んだ。
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