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落ちる
どぷんっ。
重いものが落ち、水面に大きなクラウンができた。
ごぽり。
限界まで開かれた口から大きな水泡が上がる。
水玉の目は見開かれ水面を仰ぐ。
黒く長い髪は水中を揺蕩い、両側から顔を覆う。
少女は落ちていく。
その冷たさが少女から命の温度を奪っていく。
されど少女は抵抗しない。
息苦しかろう。冷たかろう。
けれど少女は落ちていく。
その身に纏う白き衣をはためかせながら。
落ちる、落ちる。
水の色が薄くから濃く、濃くから黒に変わる。
人の目では物体が視認できないほどの暗さまで落ちた。
黒が淡く見える。
それは暗闇というものであった。
少女はまだ落ちる。
落ちて、落ちて、まだまだ落ちる。
黄色い物が少女の傍を通り抜ける。
暗闇の中の、突然のそれは少女の目に痛みを残して何処へ消えた。
また暗闇。
今度は僅かに感覚が残った爪先に何かが掠めた。
少女は確認しようともしない。
闇の中では人の目は機能しないからか。
何かが蠢いた。
闇よりも濃い黒の何かが少女の周りを回りだす。
少女に意識はあるのだろうか。
何かが少女の背に回り、少女を突いた。
少女の腹が浮き上がる。
1度、2度、3度と浮き上がらせて、何かは去っていった。
少女は身体を反らせて落ちる。
やがて少女は何かに接触した。
冷たく、温かく、ぬるい何か。
それは上に、下にと緩く動く。
少女の身体もその動きに合わせて浮き、落ちる。
それは右へと移動を始めた。
少女の頭がある方だ。
少女の身体もつられて移動する。
少女はそれに身を委ねることにした。
見開いていた瞳を閉じる。
少女は落ちることを止めた。
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