君のことは一ミリたりとも【完】
だから、と彼は呟くとやっと私の目をまっすぐに見つめてきた。
「ずっと言えなかったこと、言っていい?」
「……」
その言葉に静かに頷くと彼が少しだけ安堵したように微笑んだのを見逃さなかった。
そして、
「河田さん、今まで本当にごめん」
初めて私は彼からの謝罪の言葉を聞いた。
それは口先ばかりの嘘ではないとすぐに分かる。
その言葉で今までの私たちの間にあった蟠りが清算されたような気がした。
私も今までこの人に対して抱いていた感情が、ほんの少しだけ緩和された。
そうか、私は……
「(私はこの人に期待をしたくなかった……)」
嫌いだと思われているならずっと嫌われていよう。
少しでもいい人に思えてしまったなら、心を許してしまいそうになるから。
彼の雰囲気だとか言葉だとか表情だとか、全てが曖昧で、そんな人に対して何か感情を持つことが怖かったのだ。
彼にだけは依存してはいけないと思ったから、寧ろ嫌われ役でいようと思った。
私はこの人が嫌いなんだろうか。
「……って、ことで。俺の話は終わりー」
「終わりじゃないでしょ、ちゃんと質問に答えて」
「質問?」