君のことは一ミリたりとも【完】

私は「だから」と話を続けた。


「私、アンタのこと一ミリも好きじゃないし、今まで通り酷い態度取ると思うし」

「……」

「……正直、生瀬さんのことを忘れられてない。だから忘れるためにアンタのことを利用することになるけど」


途中から自分の話していることがとてつもなく恥ずかしいことに気が付いた。


「それでも、いいの？」


そう言って彼のことを見つめると、唐沢は珍しく耳まで赤く染めて「え？」と戸惑ったような表情を見せた。
どうやら私にそんなことを言われると思っていなかったのか、どう返事を返していいか分からず、手を口元にやって目は一点をずっと見つめたままだ。

こんな唐沢は初めて見た。この抜けた顔なら永遠に見てられる気がする。


「……いや、はい。いい、です」

「どっち」

「よろしくお願いします」


そう発した彼はようやく目の前の状況を理解出来たのか、次第に口元のラインを緩ませた。


「はは、ヤバい。手、震えてるんですけど」

「馬鹿みたい」


唐沢のその照れたような顔を見て、この人に対する偏見だとか嫌悪感だとかを一瞬忘れた。
この人にはこの人の考え方があって、私がそれを理解しようとしてなかっただけなのかもしれないと。

唐沢と向き合うのは彼に脅されているみたいで嫌だった。
しかし今私は自分の意思でこの人に向き合っている。

どうしてそのような気になれたのか。


きっと、生瀬さんとのことを忘れてる時、私は唐沢のことを考えている。