君のことは一ミリたりとも【完】
目的階に到着すると再び受付で連絡を取り中に入れてもらう。
若い女性社員に連れられて会議室のようなところへ入らされた俺は生瀬が来るまで窓の外の風景を眺めた。
生瀬の会社の取材が決まったのは1ヶ月前ほど。その頃は特別な気持ちもなく、ここ最近で業績をぐんぐんと伸ばしている企画会社ぐらいにしか思っていなかった。
実際に今日は会社の話しかしないだろうし河田さんの名前なんて出す気もないけれど、生瀬がどんな人間なのかは興味がある。
不倫をしていた時点で人間的な裏表はあるんだろうけど。
丁度自分が働いている出版社のビルを見つけた辺りでドアのノックがなり、中に入ってきたのはホームページにある写真通りの爽やかな長身男性だった。
「すみません、打ち合わせが長引いてしまって。本日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、本日は取材をお受けいただいてありがとうございます」
生で見る生瀬はテレビや雑誌から感じ取れるイメージそのものの人間だった。
俺の中でのイメージが河田さんを振っているところでしかなかったので、あの時は完全なオフの姿だったのかと自然と納得がいった。
「素敵なオフィスですね。玄関入った時からお洒落で驚きました」
「はは、よく言われます。見た目だけでもよくしておかないと、イベント会社はイメージが大事なので」
「確かに。それもそうですね」
名刺を交換すると生瀬は「なるほど」と、
「直ぐそこの出版社ですよね。近くて何よりだ」
「ここの窓からもウチの出版社見えますよ。全然年季が入っててお恥ずかしいですが」
「いやいや、それほど歴史があるということで」