君のことは一ミリたりとも【完】



なるほど、確かにここまで印象のいい対応をされるとメディアでちやほやされるわけだ。
この間テレビで加奈ちゃんが生瀬のことを見てタイプだと話していたことを思い出した。


「あぁ、そういえばこの間のフラワーフェス、ウチの後輩もプライベートで行ったようで。とても楽しんでましたよ」

「そうですか、その仕事は最近の中でも上手くいったものでそう言われると嬉しいですね。久々のヒットといいますか」

「はは、ではそのフラワーフェスでのお話とこれまでの会社設立までのお話を中心に伺って参りますね」


鞄の中からレコーダーを取り出すとスイッチを入れ、録音を始める。
取材中の生瀬の受け答えはまるでテレビの取材を受けているようなハキハキとしたものだった。

たまにテレビ取材では感じのいい対応をするのに対し、映像のない雑誌取材では残念な対応を受けることが多い。
そういう部類の取材をしているとそのままの通りに記事を書いてやろうかとやけになる時もあるが、ウチは週刊誌のようないやらしいことを書く雑誌ではないのでその衝動をなんとか自分で納めている。

生瀬はカメラがないからといって机の下で足を組むこともなく、真っ直ぐと人の顔を見て話す部類の人間であった。
人の上に立つ人間として最低限の心構えをしているらしい。

途中、何度か話を脱線させながら1時間半ほどして取材の内容は終わった。


「ありがとうございました、それでは今の内容で記事を書かせていただきます。一週間ほどで出来ると思いますのでまたメールでお送りします」

「よろしくお願いします。ここの雑誌に掲載いただけることが本当に光栄でしてね」

「はは、本当に口が上手いですね」


PCを直しながらそう告げると彼は「本当ですよ?」と困ったように表情を歪ませた。


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