君のことは一ミリたりとも【完】
「有名な雑誌ですから、実際にこの雑誌に掲載されてから更に注目を浴びて業績を伸ばしている企業をいくつか知っているので。唐沢さんの書かれた記事も何個か読ませていただきましたが、どれも素晴らしい記事でしたので期待してます」
「そこまで言っていただけるなんて、それでは期待しててください」
そんな他愛もない会話をしながら会議室を出ると時間がまだあるため生瀬自身がオフィスの案内をしてくれると言い出した。
生瀬の写真以外にもオフィス内の写真も載せようと思っていたため、鞄から取り出した一眼レフを首から下げて彼に連れられてオフィスを回る。
しかし見れば見るほどお洒落なオフィスだ。なんで中で水が流れているんだろうか。
女性が働いていることもあるからか、清潔感漂う職場に机の上が雑誌やら原稿記事やらで溢れかえっている自分の机を思い出し、そのギャップで胸焼けがしそうになる。
プロのカメラマン連れてくるべきだったな。でも今の時期忙しくてなかなか捕まえられなかったんだよなぁ。
「あ、ちょっとだけすみません」
そんなことを考えていると隣に立っていた生瀬のスマホが鳴り、電話の対応のために席を外した。好きなだけ撮っていっていいという彼に甘えて様々なアングルで撮りためていたその時だった。
「なっ……」
そんな声が聞こえてきたと思ったら、そこには俺を見て驚く河田さんの姿があった。
「あ、河田さーん。どうも」
「どうもって、何でアンタがここにいんの?」
「何でって取材の仕事だよ」
胸ポケットから名刺入れを取り出すと中から一枚、彼女に向かって差し出した。