君のことは一ミリたりとも【完】



「文永総合者『現代経済』担当の唐沢と申します。以後お見知り置きを」

「……もう持ってるからいらない」

「あ、そう?」


そう呆れた顔をする河田さんは普段の時よりもしっかりしているように思えるのは彼女の職場に来ているからだろうか。
明らかに仕事が出来そうだなーと感じていると彼女が困った様子で言う。


「会社に来るなら先に言っててもらえる? 吃驚するんだけど」

「サプライズ的な?」

「一生私にサプライズとかしないで」

「はいはい」


河田さんはサプライズ嫌いと。まぁ俺もあんまり好きじゃないけど。予想していないことが起きるとその都度対応するのが面倒だからな。
素っ気ない態度を取る彼女は照れ隠しなのか、何なのか。しかして前よりかは俺に対する態度が柔らかくなったように感じる。

昨日そうなったのもあるけど、一応彼氏だからね。


「ねぇ、今日の夜空いてる? 御飯食べに行かない?」


そう言って咄嗟に彼女の右手を掴むと予想していなかったのか彼女の身体がピクリと跳ねた。
しかし直ぐに振り払われると思っていたその手は案外繋がれたままで、


「……今日、もしかしたら遅くなるかもだけど」


おっ、断れなかった、そんなことが思っていた以上に嬉しくて、思わずニヤケが表情に出そうになるのをなんとか堪えた。



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