君のことは一ミリたりとも【完】




「分かった、じゃあ終わったら連絡して? 会社まで迎えに行くから」

「はいはい、そろそろ手を離して」

「いやー、折角付き合えたんだしカップルっぽいことしとかないと勿体無いなって」

「ここ私の職場なんだけど」


嫌悪感を示すような顔はするけれど無理矢理手を離そうとはしない。
まるで珍獣を手懐けた時のような満足感を覚えると知らぬうちに口が好き勝手喋っていた。


「俺、好きな子には意外とぐいぐい行くみたいなんだよね」

「……」


彼女が「本当に離して」と腕を引っ込めようとした時、


「河田?」


俺たちの間に入り込んできたその声に強く腕を振り払われた。
電話を終えた生瀬は俺たちの元へと近付いてくるにつれて目の前の河田さんの表情が青く染まっていくのが分かった。

あぁ、こんなところで実感したくなかったけど……


「(河田さんってやっぱり……)」


まだ生瀬のこと……


「し、失礼します」

「あ、おい。河田」



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