君のことは一ミリたりとも【完】
「やっほー、河田さん」
唐沢だ。何故だか唐沢が私の目の前にいる。
彼は胡散臭い笑顔を浮かべながら私に近付いてくる。
「部活? こんなに暑いのに大変だね」
「……」
「あれー、無視ー? 折角声を掛けてあげたのに無視? ねぇねぇ」
「……」
尋常じゃないくらい、鬱陶しい。何なんだ、何でこんなに私に絡んでくるの。
唐沢自体とは関わりがなかったが、どうして親友同士が恋人であるがために顔見知り程度ではあった。だけど私はこの男が許せなかった。親友の、優麻の周りをウロつくこの男が。
唐沢は優麻のことが好きだった。いや、今も好きなのかもしれない。そのことが一番気に食わなかった。
「河田さんって短距離選手だよね。何秒くらいで走んの?」
「……言いたくない」
「応援してるのに」
「アンタに応援されても嬉しくない」
すると彼は私の悪態にストローから口を話し、はぁと呆れたように溜息を吐いた。
「本当、可愛くないね。もっと優麻ちゃんみたいに素直になったらどうなの」
「っ……」
蛇口の吐水口を唐沢の方へと向けハンドルを思いっきり捻る。すると勢いよく飛び出た水が彼の方へと放射される。