君のことは一ミリたりとも【完】
流石に予想外だったのか、彼は「うわっ!」と慌てて放射された水を避けた。
運良く水を交わした唐沢は制服の裾を少しだけ濡らしただけで終わった。
未だ心臓がバクバクしているのか、彼は胸の部分を手で押さえてこちらを見つめる。
「水かけるのは反則でしょ」
「自業自得」
「……」
彼は私から目線を逸らすと「可愛くないね」とまた同じことを呟いた。
もうこの男にどう思われても良かった。こんな気に食わない奴に嫌われたところでどうってことはない。
ただ、コイツが私と優麻を比べる度に……私は……
「あ、河田さん!」
私がその場を去ろうとすると慌てて声を掛けてくる唐沢。
まさか今までの悪行を謝罪するつもりなのだろうか、と淡い期待を抱いて振り返ったが無駄な行為だった。
「俺、セミロングの女の子が好みー!」
そうケラケラ笑って叫んだ彼を今すぐ飛び掛かってやろうかという衝動に駆られる。
何でそれを今、私にわざわざ言うのか。頭がおかしいんじゃないだろうか。
もういいや、この男に割く時間が無駄だ。折角の休憩時間だったのにこんな胸糞悪い気分で部活に戻らないといけないなんて。
やっぱり唐沢と関わるとロクなことがない、改めてこの日再確認をした。
暫くして私が短距離の記録を測っていると、唐沢が女子と二人で帰るところを見かけた。
どうやら新しく出来た彼女なのだろう、私に向けた笑顔よりも優しい顔をしていた。
彼女は茶色掛かったセミロングだった。