君のことは一ミリたりとも【完】
恐る恐る扉を開き、中に入るとリビングに置かれたベビーチェアを覗き込む男性二人の姿があった。
片方は優馬の旦那であり、赤ん坊の父親でもある神崎聖。
そしてもう片方は、
「お、河田さん来たの。遅かったねー」
何故か唐沢の姿があった。
こちらを振り返った唐沢は悪戯が成功した子供のような笑みを私に向けてきた。
思わず手土産の袋を床に落としそうになるのをぐっと堪えて後ろにいた優麻の両肩を掴んで訴える。
「アイツがいるとか聞いてない!」
「い、言ったら亜紀ちゃん来ないかもって思って」
「なんで呼んだの?」
「折角のパーティーだから人数多い方がいいかなーって思ったんだけど」
だったら別にあの男じゃなくてもいいはずだ。
休みの日は会うことはないだろうと完全に油断していた。
い、今すぐ帰りたい。そんな私の気持ちを汲み取ったのか、唐沢がやれやれと言った様子で近付いてくる。
「今日は優麻ちゃんの出産&退院祝いだよー。まさか帰るだなんて言わないよね?」
「っ……」
「それに、この間だって会ったんだし……」
「この間?」
唐沢がつい漏らした言葉に引っ掛かりを覚えたのか、優麻が不思議そうに首を傾げた。