君のことは一ミリたりとも【完】



「えっと、同窓会の日に会ったんだよね? それ以来?」

「っ……」


そうだ、優麻には何も言っていない。唐沢と私と勤める会社が近いこと、色々あってこの男に助けられたこと。
今、この目の前の男と交際をしていることも。

私は唐沢の腕を引っ張り、「ちょっときて!」と優麻たちをリビングに置いて廊下に連れ出した。
彼女たちの耳に私たちの言葉が聞こえない距離まで来ると振り返って唐沢と向き合う。


「この間、私優馬の家行くって言ったよね?」

「言ってたね」


この間とは初めて唐沢と二人でご飯を食べに行ったことだ。飲みは意外とスムーズに流れ、彼は私に一切手を出すことなく駅まで送ってくれ、そのことに私は少し感心をしていた。
その時に私は今度の休みに優馬の家に行くことを彼に伝えていた。それを聞いた彼は「ふーん、仲良しだね」と簡単な感想を口にした。

一言も「俺も行くよ」なんてことは言ってなかった。


「なんで言わないの?」

「サプライズ的な?」

「私サプライズ嫌いって言ってたよね?」

「言ってたね」


同じことを言わせるなと思わずその余裕そうな顔に飛び付きたくなる。
唐沢は私が本気で怒っているのだと分かると困ったように頬を掻いた。


「でも本当にあの時は俺知らなかったんだよ。誘われてなかったし。けど、あの日の夜に聖から連絡があって家で優麻ちゃんの退院と出産祝いするからどうかって」

「私に連絡することもできたでしょ」

「河田さん、俺がいると来ないと思って」



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