君のことは一ミリたりとも【完】



本当にその通りだ、この男がいたなら私はこの場所にはいないだろう。
いくら腹を立てたとしてもそもそもこの男はそういう奴だったと無駄に納得してしまう。


「とにかく、余計なことは言わないで」

「余計なことって? あぁ、俺たちが付き合ってることとか」

「っ……言わないで!」

「……」


そうピシャリと言い放つと一瞬彼の表情が固まった。
思わず出てしまった強めな言葉は震えていた。


「お願い、絶対優麻には言わないで」

「……」


少し、悲しそうな顔に見えたのは気のせいだろうか。
唐沢は直ぐに気を取り直したように「うん、分かったよ」と笑顔を作る。今はその胡散臭い笑顔にホッとしている自分がいた。

昔、あんなに嫌っていた唐沢と付き合っている事実。それを知ったら優麻はどう思うんだろう。
いつ別れるかも分からないのに、彼女を振り回すことはやめたい。


「じゃあ今まで通り、今日は仲の悪い同級生演じましょうか」

「……」


仲が悪いのは事実だけど。私は彼の言葉に静かに頷いた。

リビングに戻ると優麻はキッチンに立って料理を使っており、神崎はそんな彼女の代わりに出来た料理を広いテーブルの上に並べていた。
何か手伝おうかと声を掛けたが「亜紀ちゃんはお客様だから!」と一点張りでキッチンに入らせてくれない。今日は彼女の祝いの場のはずなのに彼女が一番働いている気がする。

仕方がなく私は彼女の代わりに寝ている赤ん坊を見守ることに。


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