君のことは一ミリたりとも【完】



「すっかりお母さんだね」


優麻の姿を見た私がそう言うと彼女は照れたように笑う。


「どうして名前姫乃にしたの?」

「だって聖くんの子供だよ? 王子様の子供は姫ちゃんでしょ。でも姫じゃ可愛すぎるから姫乃にしようって聖くんが言ったの」


なるほど、そこの部分の修正は神崎のお陰だったのか。しかし神崎の遺伝子を継ぎながらも優麻の可愛さも残っている姫乃ちゃんは本当にお姫様のように可愛らしい。そう考えると名前はピッタリかもしれない。
無事出産は終わったと聞いて安心はしていたけれど、実際に会ってようやく一息つけた気がする。

するとそんな私を見透かしてか、優麻は「よかった」と、


「亜紀ちゃん、ちょっと元気出たね」

「え?」

「この間会った時、元気なかったでしょ」


その言葉に私は以前のことを思い出す。そういえば前に優麻に会ったのは私が生瀬さんに振られて2日後ぐらいだった気がする。
その時はまだ振られたことにショックを受けて、傷心気味な中彼女に会いに来ていた。しかし出産を間近に迎える優麻を不安にさせたくなくて、元気に振る舞ったはずだった。


「お仕事忙しいって言ってたけど、もしかしてそれ以外にも何かあったんじゃないかなって……」

「……」

「だから今日は"亜紀ちゃんを元気づけよう会"も兼ねてたんでしたー」


だから良かった、と満面の笑みで笑う彼女に私の中の罪悪感が騒ついた。


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